メルテブルク

殺傷ブルース、オーデンセの鳥

負けることを禁ずる(1)

夕暮れの時間帯、ぼくは冷蔵庫の前で冷たい緑茶をコップに注ぎ過ぎたが、そのまま一歩も動かずに、時間を掛け、無理をして飲み切った。そして、暗いリビングの床に放置されていたチョコレートのホイルを捨てるために、動き出した。絶望的な気分だった。体が一気に重くなったように感じた。
死にたい......
と、ぼくは思った。
ぼくは冬の末が終わろうとしていた先週のある夜、自殺をしないと決めた。けれども、死にたいと思うことは変わらなかった。その夜から今日までの夕暮れに、夕焼けはあらわれなかった......
ぼくは昨年、高校を中退した。高校に在籍していたのは1年と1学期。目的は、神経症の療養だ。神経症になった原因は、自分でも説明ができないほど曖昧だった。
ぼくは部屋に戻っても退屈だなと悟り、何か用件は無いかと記憶の中を遡っていると、母にいいたいことが薄々ではあるが在ることを思い出し、それを伝えるために階段を上り、二階のどこかに居る母を探した。母は丁度部屋から出てきて、夕飯を作るよ、といったから、ぼくは一階に戻ることになった。母はキッチンに立ち、ぼくは傍のテーブルに神経衰弱状態のまま座った。
「ねえ、ねえ」とぼくは二つ息を吐いた。
突っ伏したいのを堪えて、鬱陶しいほど重苦しい自分の身体を母の方へ向け、母が一瞥したのを確認すると、ぼくは続けた。
「今日精神状態悪いんだけどさ、このまま治らなかったらさ、生きていく意味無いよね。孤独死するだけじゃん」
「だからさ、何ていって欲しいの?」と母は聞いた。無理は無い。ぼくはこの種の問いかけを今までも充分にしてきた。しかし、一向に解決する気配すらあらわれない。
「だから、これから先もし治らなかったら、迷惑かけるだけじゃんよ」
「死にたいの?」
「死にたいよ」
「ああ、聞きたくない」
話が途切れたので仕方なく自分の部屋に入ると、布団に包まりながら、将来を想像した。いや、ぼくは本当は死にたくない。死んだ方が迷惑をかけるじゃないか。このまま地球が滅びればいいのだ。そうじゃなきゃ生きていけない。病気が治らなかったら味わうであろう絶望の中を生きていく自信が無い。こんな中途半端な奴の話など誰も聞きたくないよな。ぼくは今後生きていく道を選んだせいで、家族から規範意識によるプレッシャーを感じていた。自立しなければならないのだ。もう死ぬのは怖くないというのに。生きていけるかよ。ぼくは「本当は生きたい」と伝えて安心させたかったが、そういえなかった。何一つ生への処方箋を得ることができなかった。いや、最初から要らなかった。と、携帯電話のノートにメモした。